前回に引き続き、6月定例会一般質問のご報告です。
今日は●教室不足の解消についてです。
人口減少の抑制に妨げとなる可能性の1つに、教室不足が原因で実施されている開発抑制があります。西宮市では文教住宅都市としての良好な教育環境を守るため、受入が困難な学校区において一定規模以上の戸数を有する共同住宅等の住宅開発に対して延期や中止・計画の変更などを求める「教育環境保全のための住宅開発抑制に関する指導要綱」を施行しています。十分な教室が確保できない状況では、開発を抑制しなければならないことは致し方ないかもしれません。一方で、西宮市に転入したいと考える方々の機会を失っている可能性も否定できません。
資料⑩をご覧ください。
こちらは教育委員会から提供いただいた2018度年と2023年度の校区別人口の資料をもとに、5年間で各小学校区の児童・生徒がどれだけ増減したかを地図上で表したものです。地図上には各小学校区内の未就学児童、小学生・中学生それぞれの増減人数を記載しています。枠の色が赤色の校区は児童・生徒数全体で減少、青色は増加したことを意味します。また開発抑制がかかった小学校区には枠の下に記載をしています。そして左側のグラデーションは2023年度の未就学児童の人口を校区別に色で表しました。就学前児童人口が最も多いのは赤紫色の鳴尾北小学校区で1,110人、次に紫色の夙川小学校区の967人、樋ノ口小学校区の907人と続きます。最も少ない学校区は白色の西宮浜義務教育学校区で182人となっています。また左下の表は同期間で開発が行われた、あるいは開発予定の住宅やマンションの戸数と面積です。その内、開発面積が1万㎡を超える6つの小学校区を黄色い丸で記してあります。ご覧の通り、今津小学校区を除く全ての学校区において、児童・生徒数が2018年と比較して増加しています。特に甲子園浜小学校区と鳴尾北小学校区では、未就学児童の人数が大きく増加しています。なお開発面積の最も大きな神原小学校区については、現在夙川学院中学・高校跡地での工事が未完成のため、完成・分譲後は児童・生徒数が大きく増加すると予想しています。
こうした結果の背景として、転入して来られる方は転勤によっていつまた他の地域へ引っ越しするかわからないため、転売しやすく値崩れしにくい新築マンションを購入する傾向にあるのではないかと推察しています。以上のことから、今後もマンションなど新たな住宅開発を促すことが、転入人口を増やす効果的な手法だと言えます。
教室不足を解消するには、老朽化した学校の建て替えを行うタイミングで教室の数を増やす必要があります。しかし、現在の「西宮市 学校施設 長寿命化計画」では大社中学校の建て替えを最後に、今後は全ての教育施設に対して長寿命化 改修工事を行います。この計画は老朽化した学校施設に対して防水加工や外壁・内装修繕を行い、建て替えを行わず建築から80年間施設を延命利用するための取り組みです。2019年度から40年間かけて小学校40校、中学校19校、義務教育学校1校、特別支援学校1校、高等学校2校、幼稚園13園を対象に実施を行います。学校を建て替える費用は当初契約の入札価格を参考にみると、春風小学校では建築工事と設備工事を合わせて約34.1億円、西宮養護学校では約38億円、安井小学校では約36.1億円と非常に高額な公共施設です。全ての学校施設を建て替えることは財政上困難なため、長寿命化計画の必要性は一定理解できます。一方、現在甲陽園小学校では長寿命化 改修工事が始まっていますが、入札価格は15.4億円です。長寿命化 改修工事によって外装やトイレ、各教室などが新しく生まれ変わり、見た目は新築のように感じると思います。ただ、この工事では教室の数を増やすことは出来ません。他にも給食施設のドライキッチン化、インクルーシブ教育に必要なエレベーター等施設課題の改善、不審者などから児童を守るための安全対策など、学校施設の構造に関する課題には対応できません。決して安くはない費用と長寿命化の効果を考えると、長寿命化が全ての施設において効果的な取り組みとは言い切れないと思っています。
今後は長寿命化一択ではなく、一定の条件に見合う中学校施設を近隣の小学校施設と1つにまとめる建て替え工事を行い、そのタイミングで必要な教室数を確保する取り組みも検討すべきだと考えます。 資料⑪をご覧ください。
こちらは小学校から中学校に上がるタイミングでどの程度人数が減少したかを調べたものです。教育要覧を参照に過去14年間で調査したところ、平均で約2割程度人数が減少しています。原因としては一定の生徒が私立中学校に進学することだと推察します。住民基本台帳人口の令和5年3月末のデータによると、0歳児は3,321人、1歳児は3,580人、2歳児は3,576人、合計10,477人となっています。この0歳から2歳児童が将来中学校へ進学するとき、先ほどの傾向と照らし合わせると人数は2割減で8,382人となります。令和4年度の全公立中学校生徒数は10,827人なので、13年後に公立中学校の生徒数は2,000人以上減少する可能性があります。さらに今後西宮市で転出超過状態が続けば生徒数はさらに減少し、結果として公立中学校の教室に余裕教室が発生すると推測しています。
次に資料⑫をご覧ください。
西宮市内の児童数のピークは昭和56年で40,758人でした。この最盛期となる昭和54年から58年の小・中学校の教室数及び児童・生徒数の平均と、令和5年のそれとを比較した表です。この表を見ると、小学校・中学校共に最盛期と比較して使用している教室の数が少なくなっています。全61校の減少数の平均は約5室となり、多い学校では最盛期と比べて17教室も減少しています。この表からわかることは、最盛期だった頃に使っていた普通教室が、今は余裕教室として存在している、あるいは普通教室以外の用途で使用されている可能性があるということです。
開発抑制の主たる原因は小学校施設における教室不足です。たとえ中学校施設に余裕教室があったとしても小学校の教室確保には活用できません。そこで、小・中学校の施設を統合することで、中学校に存在する余裕教室を取り込んで、新たな教室を確保することが可能であると考えます。 また小・中学校の施設統合は教室不足の解消だけでなく、将来の負担軽減にも大きな効果をもたらします。
令和4年3月に策定された「西宮市 建築系公共施設 個別施設計画」には、長期的な目標とされる施設総量20%以上の縮減達成に向けた目安として、学校施設を6.8万㎡縮減する必要があると記されています。この縮減目標面積を達成するためには、約11校分の学校施設を減らす必要があります。教室不足の解消を目的に小・中学校2つの施設を統合することは、公共施設マネジメントにおける削減目標を早期に達成できる期待もあります。
今ある学校施設の大半は、児童数が最盛期だった今の50代から60代の世代の受け皿として整備され、今日に至っています。昭和に建設された学校施設を現状の形のまま長寿命化して残すことが果たして将来のためになるのか、今一度立ち止まって考える必要があると思っています。将来世代の負担とならないよう、今のうちに学校施設の総量を一定数減らすこと、地域の課題や特性を勘案しながら、未来の子供たちや地域にとって本当に必要な学校施設を残すこと、その責任を果たすことが我々大人たちの使命ではないかと考えます。そこでお尋ねします。
(浜口質問)
現在の長寿命化一択ではなく、地域の特性や課題、公共施設マネジメントの縮減目標等を勘案しながら、計画的に中学校施設と小学校施設との統合を行うことで、教室不足の解消やその他課題の改善を図り、将来の子供たちの為の本当に必要な学校を整備すべきと考えるがどうか?また施設統合を進めるにあたり、想定される課題とは何か?
(教育委員会次長)
現在の「西宮市学校施設長寿命化計画」では、鉄筋コンクリート造の建物の耐用年数を原則80年とみなし、築後25年を目安に、機能回復のための大規模改修工事を、また、築後50年を目安に、機能回復に加え、耐久性の向上と教育環境の改善を行う長寿命化改修工事を実施することになっております。
全ての建物で、原則どおりに長寿命化改修工事を実施した場合、児童生徒数が減少傾向にある学校や、築年数が異なる建物が混在する学校などにおきましては、効率的、効果的でない可能性があります。現在、長寿命化計画の見直しに着手しておりますが、議員ご指摘のとおり、画一的に施設整備を進めるのではなく、地域の特性や課題などを勘案しながら教育環境を整備する必要があると考えております。
次に、中学校と小学校の施設を統合する際に想定される課題についてですが、まず、児童生徒数に見合った十分な広さの学校敷地が必要であると考えます。また、現在の特別教室などの仕様において、このままでは小学生と中学生で共用できないため、施設統合による面積減の効果を十分に得るためには、施設整備の際に設計上の工夫が必要になると考えられます。その他、教育課程の工夫など、学校運営においても課題があると考えられるため、他市の事例も勘案しながら検討を進めてまいりたいと考えております。
答弁では「全ての建物で原則どおりに長寿命化 改修工事を実施した場合、児童生徒数が減少傾向にある学校や、築年数が異なる建物が混在する学校などについては、効率的、効果的でない可能性がある。現在、長寿命化計画の見直しに着手しているが、画一的(かくいつてき)に施設整備を進めるのではなく、地域の特性や課題などを勘案しながら教育環境を整備する必要がある。」とのことでした。是非、今後の長寿命化計画については、見直しを進めるよう要望します。
全ての学校施設を長寿命化することが、将来世代にとって本当に喜んでもらえる取り組みなのか疑問に思っています。少子化対策が効果を発揮せず児童数が大きく減れば、小学校を統廃合しなければならなくなる可能性もあり、校区再編や通学という課題にも直面します。また不要な学校施設の解体にも多額の費用が必要です。過去に高須東小学校を解体した際には6458㎡で約4億4千万円もの費用がかかっており、学校施設の解体が将来の大きな負担となる懸念もあります。そして80年後の更新時期が訪れた時、残した学校を建て替えなければなりません。学校の建て替えにはさらに大きな費用が必要です。現時点で想定できる内容を考えても、将来世代が抱える負担や課題はとても大きいと感じています。こうした課題を今のうちに出来る範囲で軽減していくべきです。
小学校と中学校との施設統合について、「敷地の広さ、設計上の工夫、教育課程の工夫など課題もあるが、他市の事例も勘案しながら検討する。」とのご答弁でした。 お示しいただいた課題について、小学校と中学校がそれぞれ隣接している施設であること、周辺に住宅がなく、高さの制限を緩和することに問題がないことなど条件に当てはめていけば、計画では市内で最後の建て替えが予定されている大社中学校と神原小学校、浜甲子園中学校と甲子園浜小学校、深津中学校と深津小学校など、今後検討が可能な学校施設がいくつかあります。また施設統合の先進事例についても、全国で新たに建設された施設一体型の義務教育学校は数多く確認できます。市内19の中学校全部とは言いませんが、一定数の中学校を対象に検討を行うよう要望します。
この質問の趣旨は、単純に教室確保の手段に留まりません。小・中学校2つの施設を統合することによって、公共施設マネジメントの観点からも有益です。さらに今後の学校施設のあり方について、従来の形に拘らず、商業施設のように校内の仕様を自由に変更できるような構造によって、将来の教育方針の変化にも柔軟に対応できるなど、今後の教育の在り方を検討できる機会にもなります。学校は地域の核となる存在です。先生や生徒の入口と地域の方々の入口、それぞれを別に設け、児童や生徒の安全を確保しながら地域の方々が集う施設として活用できる工夫も可能です。この取り組みによって、文教住宅都市にふさわしい、全国からも注目されるような学校施設が誕生することを期待して、教室不足の解消についての質問を終わります。
次回は最終回●医療的ケア児童への対応についてをご報告します。